『風に舞い上がるビニールシート』森絵都

風に舞いあがるビニールシート

風に舞いあがるビニールシート

 きっちりと取材して調べ上げてできあがった世界観があるから、その世界の中で生活している人がみんな地に足が着いています。登場人物達がみな「生きている」、と感じさせてくれるから、ずっぷりのめり込んで読んでしまい、涙が出てきます。短編なのに、ケーキ、焼き物、保健所の犬のゆくえ、仏像、古典文学、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)…本当によく調べはるんやなぁ、これが作家なんだなぁ、とつくづく感心しました。2006年、第135回直木賞受賞作品なんですね。
 全部面白かったけどちょっと、ちょこっとそれぞれの感想を。ドラマで見たいなぁ…と思ったのは「ジェネレーションX」。登場人物少なくて、場面も車の中がほとんどだから低予算で楽しい作品になりそうですよ。それからやっぱり「守護神」かなぁ。二部大学の感じ、なんとなく分かるので「うんうん」と思いながら読みました。古典レポートのための分析も面白かったし。あれって森さんの学生時代のレポートなんでしょうか。私もあの(できたら傍点つけたい)ストラップ欲しいし。「器を探して」は前半はありがちな話なのですが、ラストが官能的でぐっと締めてくれています。こりゃ全編読む価値があるな、と思わせてくれる最初のお話です。先ほど全編面白いと書きましたが、実は「犬の散歩」はだめでした。犬が苦手なので…。水商売始めるなんて、お金全然足りない人かと思ったら、子どもいなくて、持ち家なのにローンも抱えていない、優雅な専業主婦さんではありませんか。こればかりはのめり込めませんでした。ほかのお話はきっと余所でいろいろ書かれていると思いますのでこの辺で。
 パッと見から女性向けの本のように感じますが、中身は違います。男の人が読んでもきっと面白いです。「鐘の音」は特に。この挿画好きです。最後の「風に舞い上がるビニールシート」はもちろん、どのお話もちょっと空を仰ぎたくなる気持ちになるんです。こんな感じの空を。