『悪女について』有吉佐和子

悪女について (新潮文庫)

悪女について (新潮文庫)

 『不信のとき不信のとき〈上〉 (新潮文庫)がドラマ化されて、書店に有吉コーナーができていました。有吉佐和子は学生時代にけっこういろいろ読みました。で、本書も好きでした。友だちに貸したらそのままになってしまって、「久しぶりに読もうかな」と買ってきたのです。

 ストーリーを語ること抜きにしては書けないので、あとはネタバレしてもいい方に…
 『火車宮部みゆき)』は最後に犯人がちらっと出てくるのですが、この本は最後まで主人公が出てきません。主人公と関わりのあった人々の証言、主人公との思い出話を読んで、読者が頭の中で主人公像を組み立てるのです。不慮の死を遂げるまでの生き方と死の理由を推測しながら。彼女の生き方は「悪女」なのか…
 学生時代に読んだ時は、主人公のある意味痛快な生き方、上手に人(特に男)をだまくらかして、それをそうと自覚しないかのように日々ぜいたくに暮らす、その生き方が面白かったのですが、今回読み返してみて、こんな生き方をしてしんどかったやろうなぁ…と彼女がかわいそうになりました。昨夜読み終えたのですが、つらつらいろいろ考えていたら涙が出てきました。だれに対しても後ろめたいことがなく、胸を張って生きられるのはとても大切なこと、と思うようになったからだと思います。人をだましたり、ウソをついたり、傷つけたりするのはもううんざり。
 しかし、主人公の二人の子どもでも、彼女に対する印象や思いが全然違います。人によって接し方を巧妙に変えていたわけで、計算高くていやだなぁ…と思ったけれど、だれだって、人によって接し方変えるものです。私だって、死んだあと、いろんな人にと話を聞いて回ったらずいぶん印象が違うことでしょう。例えば、仕事仲間とママ友とでは。聞いてみたいなぁ。
 27人の証言者がそれぞれの語り口で語るから、その文体の書き分けも面白いです。それに証言者同士もときに微妙にときに大きく交錯しています。それによって、より主人公像がはっきりしてくるわけです。
 有吉佐和子のそのほかの作品は、定番ですが『開幕ベルは華やかに』がやはりミステリー仕立てで面白いです(ストーリーとは全然関係ないのですが、ガーリックトーストを作る描写が絶品。白ワインが飲みたくなる!)。別の作風では、『私は忘れない』『助左衛門四代記』なども。