『日本沈没』小松左京

日本沈没 上 (小学館文庫 こ 11-1)日本沈没 下 (小学館文庫 こ 11-2)
 映画『日本沈没』を見たのですから、原作も読まなくてはね。……とはいうものの、−さんざん言われてきてるからもうネタバレにもならないですよね−こりゃ別物ですよ、別物。
 映画を見てから原作を読んで、よかったことがあります。
 映画では、冒頭にマントル対流とかプレートとか、沈没の原理がビジュアルで(というかむしろ感覚的に)理解できるのです。しかも、トヨエツが説明してくれるし。おかげで小松左京の文章説明の方もなんとかついていけたような気がします。地球物理学なんて、とてもじゃないけど理解できる頭じゃないので。
 で、映画では始まって10分ぐらいで「日本が沈没するまで一年切ってる!」ことが分かってしまうのですが、(ここから先はやはりネタバレかも)
 原作で日本が一年以内に沈没すると分かるのは上巻の終わりの方なんです。上巻前半は、「この異常気象はなんなのだ?」というのがずーっと書かれているわけですね。
 そして、日本政府の対応の仕方も原作の方がしっかり書き込まれています(当たり前か)。移民の様子も。映画では行き先らしきものを胸からぶら下げた国民が空港や波止場でゾロゾロ歩いているシーンが繰り返しうつるだけだったけど。
 クライマックスの沈没シーンも映画と全然違います。
 映画では、日本列島全体が徐々に裂けていく様子が、衛星から俯瞰した全体像として描かれます。それが何度も繰り返し出てきて、少しずつ沈没が進んでいることになるわけです(私は、その前の映像との違いがあまり分からなくて、効果がないような感じがしたのですが)。
 原作で沈没が細かく描写されるのは、「大阪」なんです。日本沈没だし、首都が沈む様子が書かれるとばかり思っていたので、これは衝撃でした。映画の具体的な沈没の描写は、東京、名古屋、奈良、京都、大阪それぞれの象徴的な建造物が水没したカットだけだったので。まさか一都市の沈没がこんなにリアルに描写されているなんて、思いもしませんでした。
 学生時代は大阪を南北に縦断して通学していましたから、本町でバイトをし、授業で上町台地を歩き、堺でデートもしましたから、沈んでいく場所やその町並みが浮かんできます。場所と場所の位置関係もわかるので、大阪がだんだん沈んでいく様子がぐっと伝わってきます。ああ、このシーンを映画で見たかったなぁ。原作では大阪の他に、京都も大地震で壊滅的にやられるし、津波が来て機能不能になる港として、神戸の具体的な地名も出てくるし。やっぱり小松左京は関西人なんやなぁと思いました。
 あと、ハイパーレスキュー隊なんかでは決してない、お嬢様育ちの玲子が(これなら髪が長くてもいいけどね)、蓮っ葉なふりをしてして「婚前交渉だって平気よ」といきがっているという設定は、70年代ですよね。前衛音楽家や建築家との別荘でのパーティーの下りを読んでいるときは『砂の器』を思い出してしまいました。
 映画は完結したけど、原作は第二部が最近でましたよね。読まなくては。