『不実な美女か貞淑な醜女か』米原万里

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)(私が読んだのは徳間書店の単行本なのですが、はまぞうに画像がないので…)
 おもしろかったー。恥ずかしくも、電車の中で何回笑ったか…
 先日、「人間の脳はアウトプットモードだ」ってラジオでお話しされていたのが米原万里さんだったのです。この本、タイトルを聞いたときは小説だと思っていたのですが、なんのなんの、
「訳とは何か。通訳・翻訳にまつわることばのあれこれ」
をまとめられた本でした。
 対話の理解のプロセス、通訳と翻訳の違い、記憶力減退を補う知識、母国語の大切さなどどれをとっても興味深い話がてんこもりです。その上、思わず笑ってしまう実例が豊富で、なんともサービス精神にあふれた一冊であります。そして大層勉強になります。
 日本語には同一言語内に二つの言語があるようだ、という部分、具体例がおもしろいので引きますね。米原万里さんがもらった腰痛体操の説明書にこんな説明があったのだそうです。

 仰臥位で下肢を伸展し、足関節を背屈、底屈する。底屈に際して腹筋を収縮する。
 
 と本文にあり、さらに体操を図解した絵があり、その下に説明書きがある。
 
 あお向けになって、足はまっすぐ伸ばしたまま、両足首から先を交互に立てたり、たおしたりします。その時、おなかを足首の動きと合わせてへこませます。
 
 ご覧の通り、両文は、これが同一言語内の言葉か、と疑いたくなるほど隔たっていて、あとの文は、前の文の立派な翻訳になっている。(28ページ)

 それから、「そろそろ子どもに英語を習わせようかしら。小学校に入る前に…」など悩んでいるお母さんにもお勧めです。
 子どもが幼稚園のとき、我が子を英語塾に通わせているママ友がたくさんいました。英語オンリーのインターナショナルな幼稚園に通う子もいました。小学校でも英語の授業が始まります。英語教育って、子どものためにいつから始めたらいいのか…迷いますよね。ま、今のところ私は、「自分たちの普段使っていることばを磨くのがいちばん大切。たくさん本を読んで、思ったことや今日のできごとをいっぱい話して書く。これ以上の勉強はない。外国語は大きくなってからで十分」だと思って、娘を育てています。でも、やっぱり本当にこれでいいのかしら、と迷うときもあります。この本は、そんな私に「大丈夫。それでいいんですよ」と言ってくれました。「通訳に大切なのは、母国語を格調高く話せること」という河島みどりさんのお話を引用しながらの一節(第五章 3日本語が決め手)は、強く頷けるものがあります。

 興味深く、深く頷きながら読めますが、決して読みやすい文(文章ではない)ではありません。ライトノベルのような安直単純な文構造はなし。一文100字以上はざらに出てきますから、覚悟して読みましょう。ことばに興味を持つ方はゼヒ。