『振仮名の歴史』今野真二

振仮名の歴史 (集英社新書)

振仮名の歴史 (集英社新書)

 桑田さんの歌詞って「匂艶ナイトクラブ」みたいに漢字に従来ない読みを当てる作詞が独特で、『ロックの子』では「愛倫浮気症」で「アイリンブーケショウ」って読ますという話が出てきて、面白いなぁ…と思っていたわけです。
 そしたらこんな本が。しかも第一章「振仮名とは何か」の第一節でいきなり「サザンオールスターズの歌詞に見られる振仮名」ですから読まないわけにいきません。サザンの歌詞ってあらゆる振り仮名の振り方があるとあらためでびっくり。
 そして、サザンで振り仮名の役割をざっと知ったところで、平安〜室町、江戸、明治と日本語の振り仮名の歴史が紹介されます。江戸の左右両振り仮名と明治の翻訳の文章、漱石の振り仮名(これの専門家だそうです)のところが詳しくて実例の図版がたっぷりでおもしろかったです。振り仮名は誰が振るのか……作家もどう読ませるか考えるのですね。文章で、振り仮名を振ってある部分って同時に2行読んでいるわけで、それでもすごいのに、両振り仮名って…当時の人は3行同時に読んでいたのか!?(今の振り仮名と役割が違うって)
 ところで第一章のサザンの歌詞のところですが、「素敵な夢を叶えましょう」という歌の歌詞に、

"あるがままに(let it be)"と歌えし偉人(ひと)がいて 時間(とき)は流れ永久(とわ)の海へ運命(さだめ)は巡る

というのがあるそうです。()に入っているのが振り仮名です。
 ここでは「"あるがままに"」に「let it be」という振り仮名が振られることで、「歌えし偉人(ひと)」がジョンレノンであると分かるという、振り仮名を使った表現技法が使われていると思うのだけれど、本書では

この「let it be」という「振仮名」は、さきに述べた「読みとしての振仮名」つまり「語形を明示している振仮名」ではなくて、いわば「余剰」として置かれていることになり、「表現としての振仮名」ということになる。

となっています。決して「余剰」ではないと思うのですよ。ちょっとはビートルズに触れてくれてもよかったのではないでしょうか。
 それから本では「振仮名」と書かれているのですが、その書き方には違和感があるので、引用部分以外は「振り仮名」と書きました。こんなこともできるなんて、そして両方同じように読めるなんて、やはり「日本語表記は正書法がない(26ページ)」ですね。そして、この表紙のルビの付け方にはかなり違和感がありますね(中は普通です(と思う))。