『南の島に雪が降る』加東大介

南の島に雪が降る (知恵の森文庫)

南の島に雪が降る (知恵の森文庫)

 わざわざ選んでいるつもりはないけれど、この季節はなぜか戦争物の本が「読んで〜」とばかりに視界に入ってきます。
 これは戦場で、劇団を作るお話。しかもれっきとした分隊として。作者は沢村貞子さんの弟さんです。もちろん俳優さん。それを知る上官に命じられ、ニューギニアのジャングルの島で、演芸分隊を作ることになります。娯楽のためではありません。戦闘も訓練もなくて、戦争がいつ終わるかも自分の命はどうなるかもわからない状況で、生きていくために、ただただ農作業をしている兵隊達に生きる目標と潤いと暦を与えるためなのです。
 演芸分隊には三味線の師匠、元歌手、ダンサー、友禅染の絵柄を描いている舞台装置係、カツラ屋の息子、声のいい僧侶などが集まってきます。彼らの演技と舞台の上での内地の四季(特に雪!)、障子、長火鉢、桜などの装置・小道具が兵隊さん達の心を動かします。
 芋を育て、そのつるや葉が観劇料になるという、演芸を見た翌日には動かなくなる兵隊さんもいるという、そんな極限状態なのですが、そんな状態だからこその役者冥利に尽きる、演劇の喜びを作者は綴っています。また、後書きによりますと、そういうひとときがあったことを知ることは、遺族にとっても救いのある、心安らぐものだったようです。確かに私も読みながら、戦死したおじいちゃんも、こんな演芸を見て心の和むひとときがあったかなぁ…などと思っていましたので。
 それにしても、舞台を作り上げるための工夫のすごさ!カツラまで作るのですよ。それもバナナの繊維から。それから徴集された兵隊さんには元々の職業があって(デザイナーまでいる!)、それが舞台作りにどんどん生かされていくところもすごいです。手に職があると強いなぁ。農業をしていた人がいる隊の作るお芋は大きい、とか。
 自分がいきなり徴収されて、今と全然違う環境で暮らすことになって、何かできることはあるかなぁ、ないといかんなぁ、と考えてしまいました。とりあえずピアニカは持って行くことにします。それから楽譜と。