『悪意』東野圭吾

悪意 (講談社文庫)

　またまた加賀恭一郎刑事の本。これは面白かったです。
　「だれ？」「どうして？」を加賀恭一郎刑事と一緒に考えていくので、加賀刑事に置いてきぼりを食わずに読み進められます。そして、加賀刑事の発見と推理力に驚かされます。しかし、それでは終わらないのです。
　お話は、ある人（野々口修）の記録と加賀刑事の記録が交互に出てくる形で進められます。小説だって作家が書いたものですが、作中人物が書いたものはその人物の主観が入るわけで、つまり、同じ場面でも野々口と加賀では受け取り方が違う。……その辺は『藪の中』な感じですが、真相追求のためにお役人に話を訊かれた人が語っているのとは違って、ある人物が「読み手を意識して」書いた文章である訳で、そこに大きな罠が待っているのです。ある人物を描くための文章術に関する見本のようなお話です。
　タイトルが効いています。これ以上は書きますまい。