『寝ぼけ署長』山本周五郎

寝ぼけ署長 (新潮文庫)

寝ぼけ署長 (新潮文庫)

 文庫本の裏書きに寄りますと、「山本周五郎唯一の探偵小説」だそうです。たまには渋いのを…と思ったのに、やはり軽そうなのを選んでしまいました。
 いろいろな難事件に「寝ぼけ署長」さんが立ち向かいます。
 最初のお話は「中央銀行三十万円紛失事件」。銀行で三十万円がなくなります。しかも、百円紙幣で三十万円!それを読むまで「30万円とはビミョーな金額やなぁ…」と思っていたのですが、山本周五郎だけあって、少しばかり前の時代なのです。ということは、30万円は今なら3000万円というところでしょうか。だいたい、百円紙幣なんて見たことないよ。板垣退助だったっけ?
 というわけで、お話も面白いのですが、言葉が面白いです。「露台」とかね。その筋の人や今だったら書くのに躊躇する(使うと編集さんに指摘される)ような言葉も使われてるし。江戸川乱歩チックかな。そして、頭脳明晰な署長のお説教は漢籍引用であります。
 こう書くと、古くさい探偵小説のようですが、山本周五郎だけに人情味もたっぷり。最初は時代がかった表現に引き気味だったのですが、「もう一編、もう一編」とあっという間に読んでしまいました。