『魔王』伊坂幸太郎

魔王

魔王

 作品中に出てくるシューベルト「魔王」、中学の音楽の時間に習いました。鑑賞したんじゃなくて歌わされたのです。「♪風のよに馬を駆り かけりゆくものあり 腕にわらべおびゆるを しっかとばかり抱けり…」って。今でも結構歌えます。何より、ダダダ ダダダ ダダダ ダダダと三連符を連打する先生のピアノ伴奏がすごかったです。これと「タンホイザー」、ブレヒトの一連の曲は印象に残ってるなぁ。ブレヒトの歌はプリントでしたので、それなりに思想を持った先生だったのかもしれませんね。
 で、この作品は、最初は、他人に自分の思ったことをしゃべらせることのできる能力を突然持ってしまった男の話。気弱な会社員に課長を侮辱させたりして、その能力をもてあまし気味にいたずら気味に使うんですけど、だんだんそんなお手軽小説ではなくなってきて大変でした。与党は転覆するし、遊園地の遊具は壊れるし。そのうえ憲法改正論まで出てきて、なんだか今を予言したかのような話でした。
 その上、なんと宮沢賢治が出てきてびっくり。『注文の多い料理店』ってそんな風に読めるんだと感心したり、詩集が読みたくなったり。高校生のときに賢治の詩集を読みふけった、ものすごくよかったという人がいましたが、賢治の詩は人を鼓舞するところがあるらしい。今度読んでみましょう。永訣の朝くらいしか知らないものね。