『プリズンホテル春』浅田次郎

プリズンホテル 春

プリズンホテル 春

 シリーズ完結編であります。電車の中で読んでて泣きそうになってしまった…富江をあんなふうにするなんて。
 確か一巻目のとき木戸孝之介は、一部業界には熱烈読者がいるけれど、まあ大した作家ではなくて、おまんま食い上げになっても生きていけるように、とホテルのオーナーの跡目をねらって…という設定だったはずなのです。ところがこの第四作目では、木戸先生は才能あふれるピックネームという設定に。『秋』で、ナナちゃんのこと書いた純愛小説が登場したあたりから、木戸先生は開花されたようです。『哀愁のカルボナーラ』もいいけど、あの作品はどこに行ったのかしら…。しかもこの作品では、ピックネーム以上に変身してしまって、なんだか都合いいなぁ……まあ、暴力的でなくなったからいいけど。
 全作通してホテルの従業員がいいですねー。支配人親子と黒田さんを筆頭に、アニタ、ゴンザレス、鉄砲常…そして、梶板長、服部シェフ。梶さんと服部さんのやりとりは緊張感があって、作るものが美味しそうで、いつも楽しみに読んでいました。前作はこの二人が道化になってたから今ひとつだったのかなぁ…『夏』のときはよかったもん。今回はいつにもまして、宿泊客より従業員がよかったです。続きは書かないよ、とにかく、当分書かないよ、というのがよくわかる終わり方でした。
 そうそう、文庫本の表紙が花札になっているのはどうしてか、の分かる巻でもあります。